ここでの紹介は、学科全体の統一見解ではないよ。全体の平均値をとろうとすると、おそらく、とてつもなくつまらないものになってしまうだろうね。そこで、ここでは、僕の個人的な考えをまとめるよ。
このスライドからはじめると宇宙物理学科の紹介のように見えるかも知れないね。でも、この宇宙船は、実は、僕達の体の中の、細胞という宇宙に出かけた宇宙船からの風景を示しているつもりなんだ。昔の名画に、ミクロの決死圏、Fantastic Journey というのがあったけれど、そのノリのつもりなんだ。
細胞の中に入った宇宙船が細胞の中から、細胞膜に近づいているところを示しているよ。観測機械の時間分解能と空間分解能がよくなったので、細胞の中のシグナル分子や細胞膜の中の受容体などの振る舞いが、1分子ずつ見えるようになったんだ。
細胞膜の上に面白い構造が見えるようなこともある。そのようなときは着陸して、宇宙船から出て、探検の開始だよ。面白い構造の中の1分子を触ったり、引っ張ったり、動きを邪魔したりして、細胞の中の分子の働きを調べていくんだ。
一人の探検もいいけれど、仲間と一緒にやるのも楽しいね。2人で一緒に探検している様子だよ(もちろんNASAの画像のパクリ。NASAさん、有り難う)。
もうわかってしまったと思うけれど、これは、生命理学科の紹介だね。大学院になると、生命理学専攻という名前になる。細かく言うと、組織としては少しずれがあるんだけれど、マイナーな話だから、学生にとっては大体同じと思っていいよ。
ところで、分子を見たことがある人はいる?もちろん、ほとんどの物質は分子からできているけれど、そのような固まりとしてではなく、1個の分子の話を尋ねているよ。
今の生物学は結構すごくってね、生きている細胞のなかで分子が働く様子を、1分子毎に見て調べるというようなこともできるようになりつつある。装置だって自作で、だから、研究するときに、色んなものが作れたり、物理や化学の知識があることが、とても大切なんだよ。
そういうことがあって、最初の宇宙船の話をしたんだ。だからたとえ話ではないんだよ。
このビデオは出版準備中のため、WEB上ではお見せできません。ラボをご訪問下さい。
では、実際に分子が働いているところを見せよう。これは、細胞のなかで、細胞が増殖したり動いたりするためのシグナルが伝わる場面だよ。Rasという緑色で標識した分子が細胞膜の上にいて(細胞の内側の表面にいて)、そこに、細胞質からRafという赤色で標識した分子がやってきて、複合体を作った後に、また分かれているところを示すよ。
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スライド11では速すぎて見えなかったと思うので、1/5の速度で再生するよ。まず、細胞膜上で緑色で標識したRas分子が動いているのが見えている。高校で生物をとった人は習ったと思うけれど、細胞膜は液体なんだ。液体だから、細胞膜上にいる分子はこのようにブラウン運動している。実は、このRas分子は活性化されていて、活性化されると、別の分子と結合して、細胞膜上で運動が止まるんだ。止まったところに、細胞質から熱運動でやってきたRaf分子(赤い標識がついているよ)がぶつかると、膜上にあったRasの複合体に捕まって、0.5秒くらい一緒にいる。この間に、Raf分子が活性化されるらしい。でも、この時間はすごく短くて、0.5秒くらいだよ。ここでシグナルの受け渡しが終わると、Rafは細胞質に去っていき、Rasの複合体も壊れて、Rasもまた、細胞膜上で熱運動をはじめるんだ。こんな具合に、細胞のなかでのシグナル伝達はディジタル式になっているらしいこともわかってきたんだ。Rasのシグナルが出っぱなしになると、ずっと細胞増殖のシグナルが出続けるから、細胞はガン細胞に変わってしまう。だから、ディジタル式に制御して、シグナルが出っぱなしになるのを防ぐ仕組みになっているんだと思うよ。
だから、生物学の最先端の研究では、みんなが持っている生物学の印象とはずいぶん違うこともやっているんだよ。だから、生命理学科では、生物に今まで興味を持ってきた人だけではなく、数学、物理学、化学に興味を持つ学生諸君に来て欲しいと思っているんだ。これは、学部段階でもそうなんだけれど、学部の時に他の学科で勉強した人たちにも、大学院の時に生命理学専攻に来て欲しいと思っている。
そのための仕組みも整備されているよ。大学院の入試のやり方に工夫があるんだ。よく、大学院入試は、内部の学生に有利だと言われるよね。学部で教える先生と、院入試を出題する先生が同じだから、仕方が内面もあるのだけれど。それで、生命理学の大学院では、他の学科や学部、他の大学の人、つまり、生命理学に所属していない学生の人には、面接だけで入試をするという別枠の入試もやっているんだ。こうすることによって、様々なバックグラウンドを持った院生に来てもらおうと言うことだよ。詳しくは、スライドを見てね。
だから、積極的な皆さんには、他学科で勉強して、大学院で生命理学専攻へ来て下さい、と言っているんだよ。
もちろん逆の道も準備してある。学部の時に生命理学科で勉強した人が、大学院では、所属が物理や化学で、生物関連の研究をしておられる先生のところへ行きたいということもあるよね。そのような先生方には、生命理学専攻の兼任をお願いしてあって、生命理学専攻の入試を受けて、その先生方の研究室に進学できるように配慮してあるよ。
ついでに、B入試の説明をしておくよ。
どれも、スライドに詳しく書いたから、そちらを見てね。
生命理学科にきて大学院に行かない人もいるよね。大学卒業が最終学歴になるから、学卒と呼ばれている。そういう人に、未来は開けているか、ということを考えてみよう。
取りあえず言えることは、群れに埋もれてはいけない、他の人と同じではいけない、ということだと思う。22歳にもなって、自分の売り物とか特徴がない人は、先がないと思う。
他の学科でも同じだと思うけれど、他の人と差別化するのに一番よい方法は、学科が余程できる人を除いては、他のスキルを身につけることだと思う。
今、就職するときに、他のスキルとして一番評価されるものを並べておくよ。よく見てください。実は、一番評価されるスキルの一つが、大学院に進学して、研究をかいま見ることなんだけれどね。
生物をそこそこ勉強していて、コンピュータがそこそこできれば、まず、ゲノミクス関係の就職は大丈夫。
それは、ゲノミクスも進展が速いから、タンパク質の構造とか、細胞の代謝やシグナルの基本的な考え方がわかっていないとだめだからさ。これが、学部教育の威力でもある。スキルの基本を作るからね。学部教育は人を作ることになるよ。
それが先に進むと、大学院に進学して、今度は初めて研究の意味がわかるということになる。だから、せめて修士くらい持っていないと、学卒では、就職しても、開発や研究をやるには中途半端。学部の勉強が生きないよ。だから、工学部、農学部では、ほとんどの人が修士までは行くでしょう?
親と話をすると、大学院とはどんなところか、さっぱりわかってないでしょう? 日本の社会では、小学校の教育をどうするか、という話はあっても、大学院をどうするかという話はないよね。しかし、日本の将来を考えると、今の段階では(まだ、小学校は他国と較べても最悪というほどのことはないので)大学、大学院をどうするかというのは、小学校をどうするかというよりはるかに大事なことなんだ。だから、取りあえずは、大学院進学を本気で今から考えて欲しい。親に相談しても、多分、分からない人が多いから、早くから、先生に相談に行くこと。先生というのは学生が来てくれないと寂しいものだから、話に行ってあげると、喜んでくれるよ。飲み代とか、夕食代がうくかもね。
よく、博士まで行くと、大学院までと同じことばかりやりたがるのでダメとかいう話があるけれどとんでもない。今は、博士を出たあと、ポストドクトラルフェロー、または、ポスドクといって、他の研究室に行ってさらに腕を磨いたあとに、大学に就職したり、企業の真ん中くらいのポジションで就職するという時代なんだ。
世界で一番大きい企業の一つのジェネラルエレクトリックという会社で、もうけを10倍くらいに拡大して名経営者といわれた、John Welch (ジョン・ウェルチ)という人がいる。彼の自伝に、なぜ彼が博士をとることにしたか、という話が出てくる。大学の研究室の先輩と飛行機に乗ったときに、先輩は学位を持っていたので、フライトアテンダントに「ドクター何とか」と呼ばれ、彼は学位がなかったので「ミスターウェルチ」と呼ばれた。これは絶対、ドクターウェルチの方がかっこいいと思って、学位を取ることにしたんだそうだ。日本の社会は、必ずアメリカ社会のあとを5-20年遅れで追っていくから、日本もそうなるよ。
難しく言い直すと、好きなことをやって食っている人がいる社会、そういう人が社会にとって非常に大切だということが認知されている社会、そういう風に日本もなっていくだろうということ。
だから、学位を取る方がいいよ。
スライドを見てね。
前と同じスライドなんだけれど---
こういうスキルが求められているのは、実は、大学院でも同じだよ。広い理学の知識、コンピュータ、英語。結局、これらはどこへ行っても同じだね。例えば英語。英語ができないと論文を読めないし、書けないし、おまけに自然科学というのも文化だから、結局は説得と納得が大きい部分を占めることも多い。特に、研究の潮流を決めていくような議論ではね。
生命理学の大学院では、数学、物理学、化学を勉強してきた学生を求めているのは、さっき強調した通りですよ。
もう一度繰り返すけれど、生物は、この図で示すように、最先端ではすごく進みつつあるので、ホントに多様な人たちを求めているんだよ。
最後まで見てくれて有り難う。
付録です
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京都大学 物質-細胞統合システム拠点(アイセムス) 楠見グループ
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