論文・発表

主要論文の位置づけ

1-1 基本的な興味:細胞膜分子の動的組織化の機構

私達は「細胞膜分子の動的な組織化の機構」に興味をもち、それを解明するための研究をおこなってきた。細胞は、細胞膜が2次元の液体のような性質をもつことを巧妙に利用して、膜タンパク質や脂質を細胞膜上で動かしたり、細胞内から輸送したりしている。これによって、特定の場所に膜タンパク質や脂質を集合・会合させたり局在化させ、分子の組織化をおこない、さまざまな機能をもつタンパク質の集合/配列構造を細胞膜上に構築しているのである。しかも、外部環境の変化に応じて、細胞は細胞膜分子の組織化をきわめて動的に変え、構造体は生成・消滅を繰り返している(文献リスト Invited Review Articlesの2)。私達はこのような過程の分子機構を明らかにし、さらに、その基礎にある(生物が進化によって獲得してきた)タンパク質の集合/配列構造形成のための一般戦略を理解したいと考えている。
一方、神経回路網の形成機構、特に、神経活動依存的な回路網形成の研究に、上記の「細胞膜分子の組織化機構の研究」の観点と方法をもってアプローチできないかと、年来、考えてきた。そして2年前より、シナプスの形成とその制御機構の研究を開始した。

現在までの具体的な研究をまとめると、

1

細胞膜上の特別な領域の形成機構

  1. 細胞間接着構造の形成
    (カドヘリンの集合、デスモソーム形成;11. 27. 39. 43. 48 )
  2. 上皮細胞の極性形成
    (膜タンパク質の局在化;27. 39. 42 )
  3. クラスリン被覆格子・被覆ピット・エンドソームの形成
    (23. 26. 27. 29. 32. 47 )
  4. シナプス(大脳の神経回路網)の形成(学会発表9件)
2

受容体同士(EGF受容体など)や受容体とエフェクター(IgGFc受容体とキナーゼなど)の会合・集合と、それによる情報伝達のトリガーの機構

(15. 27 )

3

培養細胞における膜タンパク質の運動制御機構

( 27. 29. 32. 39. 47. 48 )

4

再構成膜における分子間相互作用

( 2. 5. 13. 14. 16. 17. 19. 22. 24. 28. 30. 38. 40 )

5

赤血球における膜骨格とバンド3の相互作用

(18. 41. 44 )

6

新しい顕微鏡法、1分子直視・直接操作法の開発

(26. 27. 33. 35. 36. 37 )

を取り上げている。上記のようないくつかの実験系を扱っているのは、これらに見られる細胞膜分子の組織化に共通の基本的なルールを見いだしたいと考えているからだ。そのため、さらにこれらを、原子・分子のレベルから組織のレベルの間で統合的に研究している。今までは、細胞膜内での様々な分子の運動と会合の制御機構(上記のC~F)を重点的に研究してきたが、現在、A~Bにも重点をおきつつある。

以下の2節では、特に反響の大きかった最近の結果、即ち、1分子直視・直接操作法の開発と、それの応用による「細胞骨格/膜骨格ネットワークが、細胞膜上での膜タンパク質の運動と集合の制御に大きな役割を果たしている」という発見について述べる。

1-2 膜タンパク質の運動を1分子レベルで追跡し、それを制御する力を観測した

細胞膜上の受容体を金コロイド微粒子で標識し、光学顕微鏡下で、生細胞の細胞膜上でのレセプターの運動を、1分子レベルで追跡した(図1)。さらに、光ピンセットを用いて金コロイドを捕捉し、レセプターを細胞膜上において強制的に動かしていくことに成功した(図2)。すなわち、タンパク質の特定領域への運動・集合とそれの力学的制御機構を、直接的に調べるための方法が確立できたのである(論文リストの27. 29. 32;Biophys. J. のNew and Notable に取り上げられた)

図1

1粒子追跡法の概略。金コロイドを特異抗体などを介して、タンパク質に結合させ、運動を可視化する。

図2

光ピンセットによって、金コロイドを補足し、細胞膜に沿って膜タンパクを動かし、膜骨格の効果を調べる。

1-3 膜骨格のフェンス効果と結合/輸送効果によって膜タンパク質の運動と集合が制御されている

膜骨格は細胞骨格の中でも細胞膜に近接している部分の呼称である。我々は、膜骨格と膜タンパク質との基本的な相互作用様式として、2種類のものを見いだした。

  1. 第一は膜タンパク質が膜骨格に結合している場合である(図5b)。しかもこの時、一方向に能動的に輸送されていくものが多い。
  2. 第二は細胞膜に近接して存在する膜骨格ネットワークのために細胞膜が小さなコンパートメントに仕切られており、膜骨格が膜タンパク質の拡散を妨害して、フェンスのような効果を持つという場合である(図3, 4、図5c,d)。我々はこれを膜骨格フェンスモデルとして提唱した(文献27. 29. 32 Invited Review Articlesの2)。これは、最近、Science誌の解説記事でも取り上げられ(vol.268, 1441-2, 1995)、認知されつつある。

多くの膜タンパク質(E-カドヘリン、トランスフェリンやマクログロブリンの受容体、Na+,K+-ATPase、赤血球中のバンド3など)は、膜骨格の結合効果とフェンス効果の両方によって、運動と集合が制御されている(18. 27. 29. 32. 39. 41. 45. 47. 48 )

膜骨格のフェンス効果、結合/輸送などの効果がどのように組み合わされて、膜タンパク質の集合や会合を制御しているのかを研究することが、現在、私達のグループの主要な課題となっている。

図3

トランスフェリン受容体の運動の軌跡。約6分間の運動を示す。予想されるドメイン構造により色分けしたもの。

図4

受容体の拡散に対してコンパートメント化された細胞膜における、トランスフェリン受容体やa2マクログロブリン受容体の運動の様子を示すモデル

図5

膜骨格フェンス構造の模式図。細胞内部から細胞膜を見たところ。細胞膜、膜貫通型タンパク質、膜骨格、膜骨格を細胞膜に結合させている膜タンパク質、膜タンパク質と結合している細胞質タンパク質(a,b)、さらにそれが細胞骨格/膜骨格に結合しているところ(b)、などが示されている。膜骨格は膜にきわめて近く隣接している部分が多い。膜タンパク質の細胞質部分(あるいは、膜タンパク質とそれに結合した細胞質タンパク質の複合体)は立体障害的に膜骨格ネットワークと衝突し、なかなか隣接するコンパートメントへ移動できない(b,c,d)。膜タンパク質の細胞質部分を小さくすると、隣接コンパートメントへ移動しやすくなる(d)。

最近、多くの膜タンパク質で、多くのコピーが(b)のように細胞骨格/膜骨格に結合している例が見つかってきた(特に、光ピンセットの実験から)。多くの場合、膜骨格はその場で揺らいでいるばかりでなく、拡散運動しており、長距離を移動していく。また、膜骨格には、能動的輸送で一方向に向かって輸送されていくものがあり、このような、膜骨格に結合した膜タンパク質も、一方向に輸送されていく。

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