論文・発表

神経活動依存的な神経回路網の形成機構の研究

シナプス形成と神経回路の増強・減弱の機構の研究

本研究は、神経活動依存的に変化する、シナプス構成分子がシナプスへ集合する機構を解明し、それによって、神経への外部入力によって変化する神経回路網の形成・増強・減弱のしくみを理解しようとするものである。本研究は、「細胞膜分子の動的な組織化の機構の研究」の一環としてはじめたものだ。ラット大脳の初代培養神経細胞(海馬CA3領域から得られた神経細胞)では、培養後5日前後で多数のシナプス形成が起こり、自発的に活動する神経の閉回路もできてくる。さらに、電気刺激、低マグネシウム刺激により、シナプスの長期増強も誘起できる。このときAMPA型グルタミン酸受容体、及び、GABA受容体のシナプスへの集合が盛んに生起する。

本研究の第一の目的は、これらの受容体の集合の機構を明らかにすることである。このため、1分子直視・操作法を駆使して研究を進めている。本研究の第2の目的は、5-2節で述べるような系統的・網羅的検索によって得られた遺伝子の、機能解明に用いることである。電気刺激、低マグネシウム刺激などの外部刺激依存的におこる神経回路の形成と長期増強・減弱を観察するさまざまな方法を確立しておき、得られた遺伝子の強制発現や機能阻害をおこなうことによって、そのシナプス増強・減弱への効果を、さまざまな角度から調べる予定である。

中枢神経系の膜骨格タンパク質として重要なものには、アクチン、フォドリン、アンキリン等がある。上記の受容体の集合におけるこれらの膜骨格タンパク質の役割を解明していきたい。

出生後のマウス大脳における、発達段階依存的に発現が変化する遺伝子の系統的・網羅的な検索

シナプス形成の機構の研究の過程で、あまりにも、関連するタンパク質の同定が遅れているのに気付いた。まずは役者をある程度そろえてからでないと、シナプスの形成機構を解くことは不可能である。そこで、細胞膜上での分子集合の機構の検討と同時に、重要な関連分子の同定をも並行して進めることにした。それが、本節で説明するプロジェクトとなった。

大脳における神経回路網の形成において、最も重要な過程の一つは生後に起こる。マウスの場合には生後数週間以内である。これは、「余剰におこるシナプス形成」と、「個々の神経回路の活動の程度に依存して起こる神経回路の選抜」という2つの過程からなる。まず、神経細胞は多数の側枝をのばし、多数の標的神経細胞と余剰に回路網を形成する。この回路網の形成と並行して、マウスは開眼し離乳期を迎える。すなわち、外界からの入力が増大し回路網自身も活動を始める。このときよく使われる回路は生き残るが、使われない回路のシナプスは分解され、不必要な神経細胞も除去される。このようにして、結局はよく使われる回路のみが残り成熟した回路網が形成されるのである。

この過程に関与する分子群の多くは、出生後、発現が変動するはずである。したがって、出生後の大脳において、発現が変動する遺伝子の多くは、大脳神経回路網の可塑的(信号入力依存性の)形成に関与するものである可能性が高い。そこで、回路網形成機構の解明の第一段階として、まず発現量が出生後の時期依存的に大きく変動する遺伝子群を網羅的に検索することにした。我々は、単に特定の1個の遺伝子を見いだそうとするのではなく、関係している遺伝子をまず系統的・網羅的にカタログ化する必要があると考えている。今までのところ、大規模な遺伝子検索の準備として必須である、よりよい遺伝子検索法の開発、その確率論的整備、小規模な検索によるパイロット研究をおこない、成功裡に終了しつつある。そして、現在まさに大規模検索に取り掛かろうとしている。

我々の用いている検索法について簡単に述べておく。マウス大脳の発達段階(0,1,2,4,6週齢)に特異的な遺伝子をdifferential display法で検索するのであるが、これを我々は改良して、poly(T)を含むアンカープライマーを用いず、任意プライマーのみを用いる方法を開発した。この方法を、PRAP法(Poly(A)+RNA fingerprinting by arbitrary primers)と名付けた。従来のdifferential display法ではmRNAの3'末端に由来する遺伝子断片が得られるため、非翻訳領域しか得られることが多く、また、この部分は配列多型が多いため、ホモロジー検索にはきわめて不向きである。我々のPRAP法では任意プライマーのみを用いるため、非常に高確率で翻訳領域に由来する遺伝子断片が入手できる。

論文・発表

ページの上へ