神経細胞では、信号入力を担う部位(細胞体-樹状突起)と、出力を担う部位 (軸索)とで機能分化が起こっており、細胞膜上には各々の部位に局在するタンパク質が多く存在する。しかし細胞膜はひと続きの液体の構造なので、分子は混ざり合って、すぐに局在はなくなると考えられるが、実際には分子の局在は維持されている。この機構として、細胞体と軸索との境界にあるISの細胞膜に拡散障壁が存在することが考えられてきた。しかし、実際に障壁が存在するのかについては結果がわかれており、また拡散抑制の機構は全くわかっていなかった。
そこで私たちは培養海馬細胞を用い、不飽和リン脂質をはじめとした種々の膜分子の運動を、1分子観察によって調べ、また光ピンセット法により1分子レベルで膜中を牽引し、膜からの抗力を調べた。その結果以下の結論を得た。(1)ISに拡散障壁が存在し、細胞膜外層にある不飽和リン脂質 (DOPE)に対しても機能する。(2)拡散障壁は、Na+チャネルなどの膜骨格結合型タンパク質と膜骨格タンパク質がISに発達依存的に集積して結合し、それらが密なピケラインを作ることにより形成される。(3)Na+チャネルはアクチンから成る膜骨格依存的に不動化しており、アクチン骨格を破壊すると拡散障壁が機能しなくなる。(4)拡散障壁は、培養後7~10日目頃までの間に発達依存的に形成される。
神経細胞以外にもいろいろな細胞で、拡散障壁の存在が予想されている。本研究はこれらの形成機構の研究に対し、モデルを提供するものである。また、拡散障壁が形成される時期は、神経細胞がISに集積するNa+チャネルを主体として、神経活動依存的な信号伝達を始める時期と一致している。このことは電位依存性Na+チャネルという一つのタンパク質が、信号伝達と極性維持という、両義的な役割を担うことを示唆する。
以上のように、本研究は、拡散障壁の存在に対するこれまでの論争に答えを出しただけではなく、その作動機構を世界で初めて明らかにしたものである。
・ これは中枢神経系のニューロンの模式図です。
・ 神経細胞では、機能が明確に分かれた領域を持っています。細胞体と樹状突起は神経活動の入力を担当し、軸索は信号を出力する役割を担っています。入出力の境目にあたる領域は、イニシャルセグメントと呼ばれています。
・ このように、1個の細胞のなかで機能がはっきり分かれるためには、それぞれの領域の分子組成が異なっています。
・ 細胞膜上でも、ここに挙げたような分子が、入力・出力のどちらかの領域に局在しています。
・ しかし細胞膜は、2次元の液体です。膜上で分子がどちらかに局在を保つためには、選択的な輸送経路に加えて、イニシャルセグメント部分の細胞膜に拡散障壁 が必要となります。そうでないと熱揺らぎによる拡散によって、分子は混ざり合ってしまうと考えられます。
注:これらの研究に用いられた海馬細胞 は胎生18日のラットから摘出して上記の日数の間培養したものである。ラットは胎生21日目に産まれるので、培養後3日経ったものは生後0日、培養後2週 間なら生後11日に対応する。細胞を取り出した日から数えた培養中の日数と、実際の動物のage(日数)とは完全には一致しないと考えられるが、この程度 の短期間の培養では、それらの間のずれは、さほど大きくないと考えられる。
・ しかしこれまでの研究では、拡散障壁の存在については結論がわかれてきました。
・ また、存在が報告されている場合も、その機構は調べられていないし、流動的な膜の中でどのような仕組みで拡散を止められるのか、想像もつかなかったため、障壁の存在については疑問が持たれてきました。
・ そこで私達は、まず、拡散障壁があるかどうかを調べることにしました。更に、拡散障壁が存在するならば、それは神経細胞の発達のどの段階で形成されるのか、またどのような機構で拡散障壁が働くのか、を調べることにしました。
・ 神経細胞は、生後すぐのラットから摘出して培養しました。したがって培養後の日数は生後の日数とほぼ対応しています。
・ 膜分子としては、膜上での拡散を抑制するのが難しいと考えられている、不飽和リン脂質を見ることにしました。
・ 不飽和リン脂質の拡散が妨げられるなら、殆どの膜分子がそこでは止まるだろうと考えたからです。
・ 具体的には、炭素数18の脂肪酸を脚にもつDOPEに、蛍光分子のフルオレセインをつけた分子を細胞膜に導入し、これに抗フルオレセイン抗体を介して金コロイドを結合させました。
・ この直径40ナノメートルの金コロイド粒子をプローブ(G40-DOPE)とし、培養した神経細胞の上のリン脂質の運動を、光学顕微鏡で観察しました。
・ また、あとでお話ししますが、金コロイドをつけずに、蛍光分子そのものをプローブとした観察も行いました。
・ まずは、金コロイド粒子をつけたリン脂質の運動を、ビデオでお見せします。
・ これは培養後1日のニューロンの軸索、イニシャルセグメントです。ここに見える黒い粒子が、細胞膜上のリン脂質に結合した金コロイド粒子です。
・ それでは再生します。スケールバーは3ミクロン、実時間での再生です。
・ (再生)リン脂質はこのようにすばやく拡散しています。
・ この図は、今のニューロンでみたリン脂質の運動を軌跡としてまとめたものです。
・ 培養後1日の若いニューロンでは、細胞のどの領域においても細胞膜上の脂質の運動は同じように速いものでした。
・ 従って培養初期のイニシャルセグメントでは、拡散障壁はないことがわかりました。
・ 一方培養後10日経ったニューロンでは、ISにおいて、脂質の拡散が殆ど止まっていました。これをビデオでお見せしたいと思います。
・ これは培養後10日の細胞です。このあたりがイニシャルセグメントにあたります。
・ (再生)ここがIS。見えている黒い粒子が、すべてリン脂質プローブで、ほとんど動いていません。今度はここに注目していてください。再生します。
・ (再生)新しくプローブがこの部分に、今、つきましたが、ついた途端に止まっています。
・ 今の画像をスロー再生します。溶液中の金コロイドが、膜上に、
・ (再生)今、つきました。
・ プローブが脂質についた瞬間からこのように動かないことから、膜に脂質が動けないような構造、すなわち拡散障壁ができていることがわかります。
・ 動いているのは細胞内の輸送小胞です。
これは先ほどと同じ軸索ですが、もっと先の方です。ここでは、リン脂質はこのように制限されずに拡散していました。
・ 10日経ったニューロンでは、ISにおいて、脂質の運動性は、他の領域と比べて著しく減少していて、殆ど動いていないことがわかりました。
・ ただし、金コロイドをプローブとして見たリン脂質の運動は、直径40ナノメートルの金粒子が、周囲の構造にぶつかって引き起こされている可能性がありま す。この可能性を調べるために、フルオレセインの代わりにCy3という蛍光分子をリン脂質に標識したものを細胞膜に導入し、Cy3 の蛍光そのものを1分子レベルで検出することによって、リン脂質1分子の拡散を見ました。
・ 観察には、対物型全反射顕微鏡を用いました。
・ 蛍光分子1個の光を検出するためには、全反射、あるいは斜光照明によって周辺のバックグラウンド蛍光を減らし、かつシグナルをインテンシファイアで増幅し てから高感度のカメラで検出します。こうすると、膜上の蛍光分子1個ずつが、ひとつの輝点として見えてきます。
・ では1分子蛍光観察のビデオをこれからお見せします。
・ これは樹状突起の一部です。この視野の蛍光像を、ビデオで再生します。再生は実時間で、スケールバーは3ミクロンです。
・ (再生)この白い輝点が、1分子のCy3を示しており、リン脂質一分子の拡散の様子を示しています。
・ 今度は軌跡を重ねて再生します。リン脂質はこのように自由に膜上の広い範囲を拡散していました。
・ 今度は培養後11日経過したニューロンのイニシャルセグメントです。
・ (再生)矢印で示したのがCy3の蛍光です。これらが先ほどと違い、動いていないことに注目してください。このことから、金コロイドではなく、リン脂質自 身の運動が膜の中で抑制されていることがわかりました。(突然、細胞膜上にCy3-DOPEの輝点が現れるのは、細胞外液中には、観察中もCy3- DOPEが入っていて、次々と膜に入ってくるせいです)。
・ 次に、拡散障壁の特性を更に力学的に調べるために、脂質プローブを光ピンセットで捕まえて、イニシャルセグメントの上を動かす実験を行いました。
・光ピンセットとは、顕微鏡の対物レンズを通して、レーザーの光を急に絞り込んだもののことを言います。金コロイドのような電磁物体には、フォーカスの中心に向かう力が働くので、トラップすることができます。
・ まず、若いニューロンのイニシャルセグメントの上で実験しましたのでビデオをお見せします。
・ これは、培養開始後1日目の海馬神経細胞です。
・ (再生)軸索はこの部分です。ここがイニシャルセグメントで、この部分をこれから拡大します。
・ (再生)この領域を脂質が通り越せるかどうか、光ピンセットで調べます。 このあたりで光ピンセットが集光します。今、この脂質プローブを捕まえました。これから、イニシャルセグメントを乗り越えて細胞体の方まで牽引していきま すが、画面をはみ出てしまうので、ピンセットではなくステージを動かしています。
・ (牽引中)今プローブはイニシャルセグメントを通っています。細胞体に向かうところは厚みが増すので、フォーカス面も変えながら牽引しています。邪魔な構 造があるので少しよけたところで、細胞体にたどり着いたところで光ピンセットのレーザーを切ります。するとプローブは光ピンセットからはずれ、膜上を再び すばやく拡散しました。拡散障壁がないことがわかります。
・ 今度は同じ実験を培養後12日のニューロンのイニシャルセグメントで行いました。
・ ここはイニシャルセグメントで、ふたつの金コロイド粒子をトラップしています。ひとつは細胞膜上のリン脂質に結合していていますが、ひとつは培地中の粒子 がトラップされたものです。細胞を動かすと、溶液中の粒子の方は、常に光ピンセットにトラップされるので、画面中心にいます。レーザーを切ると、溶液中に 拡散して飛んでいきます。
・ しかし、リン脂質に結合した粒子の方は、光ピンセットに全くトラップされずに、細胞に対して同じ位置に留まっています。これは、リン脂質の周囲の細胞膜が 何か非常に固い構造になっていて、光ピンセットよりも強い力でリン脂質の拡散を抑制していることを示唆しています。
・ それでは軸索のもっと先のほうはどうでしょうか。これも培養後12日のニューロンです。光ピンセットの中に、今3つのプローブがトラップされています。全て膜上のリン脂質に結合しているものです。こちらに見える黒い粒子は細胞内の輸送小胞です。
・ 光ピンセットで牽引を開始すると、全ての粒子は光ピンセットに追随しました。レーザーを切ると、細胞膜上を拡散します。
・ イニシャルセグメントの場合と違って、細胞膜はリン脂質の拡散を制限していませんでした。
・ 光ピンセットの結果をここにまとめます。培養後10-12日以上経ったニューロンの、イニシャルセグメントにおいてのみ、リン脂質の拡散が制限される構造、すなわち拡散障壁がみられました。
・ このグラフは、金コロイド‐リン脂質プローブの拡散係数をニューロンのさまざまな部位で求め、拡散障壁ができる前の培養後6日目と、できた後の10日目の細胞で比較した結果です。
・ 黒丸はカバーグラス上に固着した、動かない金コロイドプローブの見かけの拡散係数をプロットしたものです。これらより遅い運動は、測定のノイズに埋もれて 測定できないので、これより小さい拡散係数には意味がなくなります。そこで、この中央値より小さい拡散係数を示した膜上の分子に関しては、拡散係数ではな く分子の数を数字で示しました。
・ 脂質の拡散係数は、培養後10日目のイニシャルセグメントにおいて赤で示したように、数百倍のオーダーで急激に減少していました。その他の領域においても減少していましたが、その程度は1/2から1/3と緩やかなものでした。
・ 次にISでのリン脂質の拡散係数を詳しく調べました。下のグラフを見て下さい。
・ 横軸は培養後日数です。拡散係数は培養後6日目ごろまでは速く、その後ばらつきながら、減少し、培養後10日を過ぎると、動いていない粒子と同じくらいのレベルまで低下しました。
・ このように、拡散障壁は培養後7−10日目ごろまでの間に、発達依存的にできることがわかりました。
・ では、どのような機構で、リン脂質の拡散がここまで遅くなるのでしょうか。
私たちが考えている機構を説明するために、ここでこの2つのモデルについて、簡単に説明したいと思います。まず、膜骨格フェンスモデルについてです。
・ この図は培養細胞の細胞膜を細胞質側から見た電顕写真です。これらのフィラメント状の構造が膜骨格です。すべてのフィラメントには小さいスジが細かく入っ ていますが、これはフィラメントがアクチンであることを示しています。このことから、膜骨格は主にアクチンから成っていることがわかります。
・ 右上のCGを見て下さい。膜骨格フェンスモデルとは、膜貫通型の膜タンパク質の細胞質部分で膜骨格と衝突するために、膜タンパク質の拡散運動が膜骨格の網 目に一時的に閉じ込められることを示すモデルです。このモデルを、コンピュータグラフィックスのアニメーションでお見せします。
・ 膜骨格を黄色い線で示しています。
・ 膜貫通型タンパク質は、細胞膜上を熱揺らぎによって拡散しますが、細胞質部分でこの膜骨格にあたるため、拡散が制限されます。すなわち、膜骨格の網目(コ ンパートメント)に閉じ込められます。しかし、膜骨格と膜の揺らぎのため、ときどき膜骨格フェンスと膜の隙間のスペースが大きくなってすり抜けたり、膜骨 格を作っているアクチン線維が一時的に切断されて、その隙間を通り抜けたりすることが起こります。そのため、閉じ込められている時間は、平均で1から数 100ミリ秒程度(細胞と分子種によって変わります)です。このような、一時的な閉じ込めの効果のため、膜貫通型タンパクは膜骨格が作るコンパートメント 間をホップしながら、結果的に広い範囲を拡散します。しかし、膜骨格フェンスによるこのような閉じ込め効果のため、長距離の拡散は、人工の再構成膜のよう に膜骨格を持たない膜に較べて、5−50倍程度遅くなります。コンパートメント内の拡散は速く、拡散係数は再構成膜中の拡散係数と同じです。
・ 膜貫通型タンパク質の一部には膜骨格に結合し、膜上を動かなくなっているものがあります。
・ これらが膜骨格に沿って、ピケラインのようになって細胞膜中に並んで存在しています。
・ この立体障害と、流体力学的な摩擦の効果が、その近くを通るリン脂質の拡散運動を抑制します。そのために、細胞膜はリン脂質の拡散に対してコンパートメン ト化されていて、脂質の運動が一時的にピケラインで囲まれたコンパートメントの中に閉じ込められます。
・ これを、アンカード膜タンパク質ピケットモデルと呼んでいます。
・ このとき、ピケラインの囲い込み効果が出るためには、ピケットタンパクはぎっしり並ぶ必要はないことに留意していただきたいと思います。ピケットタンパク の周囲に流体力学的な摩擦効果が及ぶために、脂質の運動を囲い込むためには膜骨格のコンパートメントの20-30%をピケットが占めればよいということが わかっています。
(参考論文:T. Fujiwara, K. Ritchie, H. Murakoshi, K. Jacobson, and A. Kusumi. Phospholipids undergo hop diffusion in compartmentalized cell membrane. J. Cell Biol. 157, 1071-1081 (2002). →PubMed)
・ 私達は、神経細胞のイニシャルセグメントにできる拡散障壁も、同様の機構で説明できるのではないかと考えました。
・ つまり、膜骨格に結合した膜タンパク質の密度が極端に高くなれば、脂質の拡散も、殆どとまるほどまでに抑制されるのではないかと考えました。
・ 実際に、イニシャルセグメントには膜骨格タンパクが他の領域よりも高い密度で存在していることがわかっているので、これについて詳しく調べました。
・ これは、軸索上の様々な場所でみられたリン脂質の運動の軌跡です。写真の赤い部分は、アンキリン-Gという膜骨格タンパクの分布を示すもので、アンキリン Gがイニシャルセグメントに濃縮していました。また、この赤い色が濃いところ、つまりアンキリンGが多く存在するところほど、脂質の運動が制限されている ことがわかります。
・ こちらの写真は膜骨格タンパクであるアクチンの染色像です。これもイニシャルセグメントに濃縮しています。
・ したがってリン脂質の運動抑制と膜骨格の濃縮には相関がありそうです。この関係を定量的にみるために、リン脂質の拡散速度と、その脂質が運動していた場所のアンキリンGのシグナル強度を測定しました。
・ 縦軸が拡散係数です。
・ アンキリンGの密度が高くなるほど、リン脂質の拡散が遅なっていること、また、ある密度を越えるとリン脂質の拡散低下が急になることがわかりました。
・ これはさきほどお見せしたスライドです。下はIS上のリン脂質の拡散係数を、培養日数に対してプロットしたもので、上は、ISに濃縮する2つのタンパク質 の密度変化を同じタイムコースで見たものです。一つは膜骨格タンパクであるアンキリンGで、もうひとつは、このアンキリンGに結合する膜タンパク質である 電位依存性ソディウムチャネルです。これらの密度は、培養後2日から10日の間に、10倍から20倍のオーダーで増加していました。
・ このように,拡散障壁ができる培養後10日目ごろまでの間に、膜骨格タンパク、および膜骨格につなぎとめられる膜タンパクの密度も増加していることから、ピケットタンパク質の集積によって拡散障壁ができるという仮説と一致しています。
・ 但し、ここでも、膜骨格とピケットタンパク質の増え方に比べると、脂質の拡散低下が急激に起こっています。どうしてこういう傾向が見られるのかを調べるために、・・・
・ モンテカルロシミュレーションを行い、膜骨格の網目に沿って並んだ動かない膜タンパクの密度を変化させたときに、リン脂質の拡散がどのくらい変わるか調べました。
・ 縦軸はリン脂質の拡散係数で、横軸は、膜骨格の上で、結合したピケットタンパクが占める割合です。
・ その結果、たとえば膜タンパクが占める割合が、膜骨格上で15%から25%に増えると、リン脂質の拡散速度は100分の1以上に急激に減少することがわかりました。
・ この結果から、ピケット密度が小さいうちはそれほどリン脂質の拡散は抑制されませんが、ある程度を超えると、少しのピケット密度の増加が、リン脂質の拡散を急激に遅くすることがわかります。
・ これは、ピケットの数が増えてくると、リン脂質が速く動ける部分が急速に減少していくこと、また仕切りを通り抜ける確率も激減することに対応しています。
・ これらのシミュレーションの計算は当研究室のKen Ritchieが行いました。
・ 最後に、イニシャルセグメントの膜骨格、および膜骨格結合型の膜タンパク質が、実際に拡散障壁の構成要素であることを確かめるための実験を行いました。
・ これらのグラフは観察した蛍光プローブの200ミリ秒間の平均移動距離(MSD)の分布です。横軸はログスケールです。
・ まずアクチン骨格の重合阻害剤であるラトランキュリンAを用いて膜骨格を部分的に破壊したときのリン脂質(DOPE)の運動を調べました。
・ 成熟したニューロンのイニシャルセグメント上で、リン脂質の運動は、もともとは殆どが動いていませんでしたが、膜骨格を破壊する処理によって、黒い斜線で 示すように運動性が回復し、樹状突起上のリン脂質や、拡散障壁がない時期のイニシャルセグメントで見たリン脂質の運動と同じくらいかそれ以上に速くなりま した(上から2つ目のヒストグラム、網掛けのものがラトランキュリン処理によりアクチン線維を部分脱重合したもの)。
・ また、逆にアクチン線維を安定化する薬剤であるジャスプラキノライドで細胞を処理したところ、拡散障壁がない時期のISで、リン脂質の動かない成分が増え ました(下から2つ目のヒストグラム、赤い網掛けがジャスプラキノライド処理によりアクチン線維を安定化させた場合)。
・ これらのことは、リン脂質の運動はアクチンからなる膜骨格依存的に抑制されていることが示唆するものです。
・ また、それ自身膜骨格に結合していると思われるナトリウムチャネルは(1番上のヒストグラム)、殆どがもともとは不動成分に分布していますが、膜骨格を壊 すことによって運動性が回復しました(1番上の図で網掛けのヒストグラム)。(ナトリウムチャネルは、Alexa標識したチャネルのアンタゴニストを結合 させて1分子蛍光観察しています)したがって、電位依存性ナトリウムチャネルは膜骨格につなぎとめられて動かない膜タンパク、つまりピケットとして、拡散障壁の一部を担っていることが示唆されました。
・ 以上をまとめます。
・ イニシャルセグメントの細胞膜にはリン脂質に対しても機能する拡散障壁が存在し、培養後10日目ごろまでに発達依存的に形成されます。
・ この拡散障壁は、ナトリウムチャネルのように、膜骨格につなぎとめられた動かない膜タンパク質、および膜骨格が、イニシャルセグメントに高密度に集積することによって形成されることがわかりました。
・ 最後に共同研究者を紹介させていただきます。
・ どうもありがとうございました。
京都大学 物質-細胞統合システム拠点(アイセムス) 楠見グループ
京都大学 再生医科学研究所 ナノバイオプロセス研究領域 楠見研究室
